旭川地方裁判所 昭和38年(ワ)126号 判決 1966年1月26日
原告 株式会社北王鉄工建設工業所
右代表者代表取締役 本間省三
右訴訟代理人弁護士 宮岸友吉
被告 鈴木茂
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 大塚守穂
大塚重親
古田渉
主文
原告の被告らに対する請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「(一)被告鈴木は原告に対し、(1)別紙目録記載の建物中公道から向って右側の一戸(以下本件建物という)の階下(別紙図面のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イの各点を順次直線で結んで囲んだ部分)一五坪を明渡し、(2)別紙目録記載の土地(二)中別紙図面のチ、リ、ヌ、ル、チの各点を順次直線で結んで囲んだ部分一二・三七五坪(以下本件土地という)を、そのうち別紙図面のヲ、ワ、カ、ヨ、ヲの各点を順次直線で結んで囲んだ部分の地上に存する鶏舎建坪四・三七五坪とその外部の本件土地上に存する古木材類若干を収去して明渡し、(3)昭和三三年二月二五日から被告両名による本件建物全部の明渡ずみに至るまで一ヶ月金五、〇〇〇円の割合による金員と昭和三三年二月二五日から本件土地明渡ずみに至るまで一ヶ月金一、八〇〇円の割合による金員とを支払え。(一)被告成沢は、原告に対し本件建物の二階(別紙図面のタ、レ、ソ、ツ、ネ、ナ、ラ、ム、タの各点を順次直線で結んで囲んだ部分)六坪を明渡せ。(三)訴訟費用は被告両名の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、請求原因として、次のとおり述べた。
(一) 別紙目録記載の土地建物はすべてもと訴外土岐敬の所有であったが、土岐は昭和一五年六月一日被告鈴木に対して右建物中本件建物を期間の定めなく賃料は毎月分をその前月末に支払う約で賃貸した。原告は土岐から別紙目録記載の土地建物全部を昭和三三年二月二五日買い受けてその所有権を取得し、同日その登記を経たのであるが、これと同時に被告鈴木に対する本件建物の賃貸人たる地位を土岐から承継した。
(二) ところが被告鈴木は本件建物の二階を昭和三〇年一〇月頃土岐に無断で被告成沢に賃料一ヶ月金三、〇〇〇円で転貸し、原告が本件建物の賃貸人となった後も依然として右転貸を継続しており、被告成沢は現に本件建物の二階を占有使用している。なお、原告は、前記のとおり本件建物についての賃貸人たる地位を土岐から承継すると同時に被告鈴木の右無断転貸を理由とする本件建物賃貸借の解除権を土岐から承継した。
(三) 前記のとおり原告が本件建物の賃貸人たる地位を土岐から承継したときの本件建物の賃料額は、一ヶ月金五、〇〇〇円であった。すなわち土岐と被告鈴木との間の本件建物賃貸借における賃料額は契約当初は一ヶ月金三八〇円であり、昭和三二年三月頃には一ヶ月金二、五〇〇円になっていたところ、その後の公租公課の増加、土地建物の価格の昂騰により右金額では不相当となったため土岐は昭和三二年三月被告鈴木に対しこれを一ヶ月金五、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をし、その結果それ以後は一ヶ月金五、〇〇〇円となっていたのである。しかるに被告鈴木は原告が賃貸人となってから原告に対し賃料の支払を全くしない。
(四) また、被告鈴木は、相当以前から本件土地のうち別紙図面のヲ、ワ、カ、ヨ、ヲの各点を順次直線で結んで囲んだ部分の土地上に鶏舎建坪四・三七五坪を建築所有し、その外部の本件土地上には古木材類若干を置いて何らの権原なしに本件土地を占有している。
(五) そこで原告は被告鈴木に対し昭和三八年四月二三日到達の内容証明郵便で右(二)の無断転貸、(三)の賃料不払い、(四)の本件土地不法占有を理由として本件建物の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたから、右賃貸借は解除され同日限り終了した。
(六) 仮に右の主張が認められないとしても、原告は被告鈴木に対し右内容証明郵便で、昭和三三年三月分から昭和三八年四月分までの延滞賃料計金三一万円を昭和三八年四月二六日までに支払うべき旨の催告とそれまでに支払のないときは本件建物の賃貸借契約を解除する旨の停止条件付契約解除の意思表示をしたが、被告鈴木は右催告にかかる期日までに右延滞賃料の支払をしなかったから、右賃貸借契約は昭和三八年四月二六日限り終了した。
(七) 仮に右の主張が認められないとしても、原告は被告鈴木に対し前記内容証明郵便で前記(二)の無断転貸、(三)の賃料不払い、(四)の本件土地不法占有及び左記の事実すなわち被告鈴木は相当以前から本件建物で便利屋業を営むほかに鶏肉鶏卵等の販売業を営み、本件建物及び前記鶏舎を利用して常時数十羽の鶏を飼い、これから鶏肉をとる作業を行い、これによって生ずる汚物を附近に堆積しておくため不快な悪臭が発散して近隣に迷惑を及ぼし、本件建物を賃貸借契約で予定した通常の用法に従って使用していないことを正当事由として本件建物の賃貸借契約の解約申入をしたから、右賃貸借は、右解約申入の意思表示が被告鈴木に到達した日から六ヶ月を経過した昭和三八年一〇月二三日限り終了した。
(八) 仮に右の主張が認められないとしても、原告は被告鈴木に対し昭和三八年一二月二日の本件口頭弁論期日に右(七)で述べた同被告の本件建物の用法違反を理由として本件建物の賃貸借契約解除の意思表示をしたから、右賃貸借は同日限り終了した。
(九) 仮に以上いずれの主張も認められないとすれば、原告は次のとおり主張する。すなわち被告鈴木は昭和二八年九月頃当時本件建物の家主であった前記土岐に無断で本件建物の二階を訴外晴山セツに転貸したが、原告は前記のとおり土岐から本件建物の賃貸人たる地位を承継すると同時に同人が被告鈴木の右無断転貸によって取得した本件建物賃貸借の解除権を同人から承継した。それで原告は被告鈴木に対し昭和四〇年五月一二日の本件口頭弁論期日に右解除権を行使する旨の意思表示をしたから、右賃貸借は同日限り終了した。
(十) よって、原告は、被告鈴木に対しては、本件建物の賃貸借が右各原因によって終了したことに基づき本件建物のうち被告鈴木が占有しているその階下全部を明渡すこと、所有権に基づき本件土地をその地上に在る前記鶏舎その他の物件を収去して明渡すこと、並びに昭和三三年二月二五日から本件建物の賃貸借終了の日まで一ヶ月金五、〇〇〇円の割合による賃料、右賃貸借終了の日の翌日から被告両名による本件建物全部の明渡済に至るまで右同割合による本件建物の賃料相当の損害金及び昭和三三年二月二五日から本件土地の明渡済に至るまで一ヶ月金一、八〇〇円の割合による本件土地の賃料相当の損害金を支払うことを求め、被告成沢に対しては所有権に基き本件建物のうち二階を明渡すことを求める。
被告両名訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁及び抗弁として次のとおり述べた。
(一) 請求原因(一)の事実は全部認めるが、原告は被告鈴木に対し昭和三三年八月本件建物明渡の訴訟(第一審旭川地方裁判所昭和三三年(ワ)第三〇七号事件、第二審札幌高等裁判所昭和三四年(ネ)第一四七号事件)(以下これを前訴という)を提起し、昭和三四年四月二一日原告敗訴の第一審判決があり、昭和三五年一一月二九日同じく原告敗訴の第二審判決があり、その判決はそのまま第二審限りで確定したものであり、原告の被告鈴木に対する本訴請求は前訴の確定判決の既判力に牴触するものである。なお、前訴において札幌高等裁判所での口頭弁論が終結したのは昭和三五年一〇月六日である。
(二) 請求原因(二)の事実中被告成沢が原告主張の頃から本件建物の二階に居住していることは認めるが、その余は争う。被告成沢は被告鈴木の家族同様の同居人兼留守番として賃料を授受せずに同居しているにすぎず、しかも同人の同居については土岐も原告もこれを知りながら何ら異議を述べず黙認していたのである。
(三) 請求原因(三)の事実については土岐が被告鈴木に本件建物を賃貸した当初の賃料が一ヶ月金三八〇円であったことのみ認め、その余は否認する。昭和三三年二月当時の賃料は一ヶ月二、〇〇〇円であり、爾来賃料額はこのままである。
(四) 請求原因(四)の事実は被告鈴木の本件土地占有が不法であることを除き、全部認める。
(五) 請求原因(五)(六)(七)の事実中原告から被告鈴木に対し難しい内容の催告書が来たことは認めるが、原告主張の催告ないし解除並びに解約申入の効力は争う。なお、請求原因(七)の事実中被告鈴木による本件建物の用法違反に関する事実については、被告鈴木の職業が便利屋業であること、被告鈴木が自家用の鶏を若干飼っていることのみ認め、その余の事実は否認する。
(六) 請求原因(八)については、原告主張の解除の効力を争う。
(七) 請求原因(九)の事実については、被告鈴木が原告主張の頃本件建物の二階を晴山セツに転貸したことは認めるが、右転貸についてはその頃土岐が承諾を与えたものである。
(八) 仮に土岐が被告鈴木に対して原告が請求原因(三)で主張のような賃料増額請求をしたとしても、右増額請求は無効である。蓋し本件建物は昭和二五年七月一〇日以前に建築され、その延床面積は三〇坪未満であるから、原告と被告鈴木との間の本件建物の賃貸借の賃料については地代家賃統制令の適用があるところ、昭和二七年一二月四日建設省告示第一四一八号(但し昭和三三年建設省告示第五二六号による改正前のもの)第二の一の1によって計算した本件建物の賃料の停止統制額又は認可統制額に代るべき額は別紙統制賃料計算書記載のとおり一ヶ月金一、七八三円であり、同告示第二の二の1によれば昭和三三年三月三一日の停止統制額又は認可統制額が同告示第二の一の1によって算出した賃料額を超えるときはそれをそのまま据え置くことになっているところ、原告と被告鈴木との間の本件建物の賃貸借の賃料の昭和三三年三月三一日の停止統制額は一ヶ月金二、〇〇〇円であるから、原告と被告鈴木との間の本件建物の賃貸借の賃料額は一ヶ月金二、〇〇〇円であって、これを超えることはできないからである。
原告は本件建物を買い受けて間もなく被告鈴木に対し「本件建物を明渡して貰いたい。家賃は要らないから。」と賃料受領拒絶の意思表示をしたものであり、被告鈴木が賃料を持参しても受領を拒絶することが明らかであったから、被告鈴木はそれ以来今日まで一ヶ月金二、〇〇〇円の額の賃料を弁済供託している。
(九) 被告鈴木は本件土地の占有について、正権原を有するものである。すなわち被告鈴木は本件建物の家主兼本件土地の地主であった土岐から本件建物を賃借した際、本件土地について本件建物の効用を全うすべきその附属地として使用することを許諾されたものであって、その際本件土地上に本件鶏舎程度の小屋を建てることについても同人の許諾を得た。爾来今日に至るまで被告鈴木は、本件土地を本件建物の附属地として占有使用しているものである。
(十) 仮に、被告鈴木の晴山セツに対する本件建物二階の転貸が土岐に無断でなされたとしても、土岐ないし原告は十数年間も右無断転貸による解除権を行使しなかったのであるから、右解除権は失効したか若しくは時効にかかって消滅したものと云うべきである。
原告訴訟代理人は、次のとおり再答弁した。
(一) 原告が被告ら主張のとおり、本訴以前に被告鈴木に対して本件建物の明渡を求める訴即ち前訴を提起し、これに対する原告敗訴の判決が被告ら主張のとおりの経過で確定した事実は認めるが、原告の被告鈴木に対する本訴請求は、前訴と請求原因を異にするものであるから前訴の確定判決の既判力には牴触しない。なお請求原因(二)の無断転貸を理由とする本件賃貸借契約解除の主張が仮に前訴判決の既判力に牴触するとしても、被告鈴木は前訴の最終事実審口頭弁論終結後においても依然として右無断転貸を継続しているものであるから、これを理由に原告は本件賃貸借契約を解除できるのである。
(二) 被告らの(八)前段の主張事実中本件建物が昭和二五年七月一〇日以前に建築され、その延床面積が三〇坪未満であることは認めるが、その余は否認する。被告鈴木は本件建物に居住する傍ら本件建物で便利屋業及び鶏肉鶏卵販売業を営む者であり、従って本件建物は住居と店舗に併用されているものであるが、その店舗部分が七坪を超えているから地代家賃統制令に所謂併用住宅には該当せず、従って本件建物の賃料については地代家賃統制令の適用はない。若し被告ら主張のように本件土地をも被告鈴木が本件建物の附属地として使用できるものとすれば、本件建物の敷地は三三坪になるから、この点よりしても地代家賃統制令の適用はないことになる。
同後段の主張事実中被告鈴木が被告ら主張の頃からその主張の額の賃料を弁済供託していることは認めるが、その余は否認する。
(三) 被告らの(九)の主張事実は否認する。
(四) 被告らの(十)の主張については、被告鈴木による晴山セツに対する本件建物二階の無断転貸の事実を原告が知ったのは本訴提起後のことであり、右無断転貸による解除権の消滅時効期間は原告が右事実を知ったときから進行するのであるから被告らの右主張は失当である。
証拠≪省略≫
理由
一 別紙目録記載の土地及び建物はもと訴外土岐敬の所有であったこと、土岐は昭和一五年六月一日被告鈴木に対して右建物のうち公道から向って右側の一戸すなわち本件建物を期間を定めずに賃料は毎月分をその前月末に支払ってもらう約で賃貸したこと(以下これによる賃貸借契約を本件賃貸借契約という)、原告は土岐から別紙目録記載の土地及び建物の全部を昭和三三年二月二五日に買い受けてその所有権を取得し、同日その登記を了し、これと共に本件賃貸借契約における賃貸人たる地位を土岐から承継したこと、以上の事実は当事者間に争がない。
二 被告らは、原告の被告鈴木に対する本訴請求は、被告ら主張の前訴判決の既判力に牴触するものである、と主張するので先ず、この点を考察する。
≪証拠省略≫によれば、原告は昭和三三年八月一二日被告鈴木を相手として旭川地方裁判所に対し本件建物の明渡を求める訴(同庁同年(ワ)第三〇七号事件)すなわち前訴を提起したこと、右訴において原告が請求原因として主張した事実は、「原告と被告鈴木との間には、原告が本訴で主張していると同一の賃貸借契約が存したところ、被告鈴木は昭和三二年二月頃以降の賃料の支払をしないので原告はその催告をなさずに昭和三三年四月九日右契約を解除し、また、原告は本件建物を自ら使用する必要があるので右同日被告鈴木に対し右契約解約の申入をしたので右契約は終了した。」というにあったこと、これに対し同裁判所は昭和三四年四月二一日原告主張の賃貸借契約の存在を認めたうえ原告主張の賃貸借終了事由はいずれも認められないとして、原告の請求を棄却する旨の判決をしたこと、原告はこの判決を不服として札幌高等裁判所に控訴し(同庁昭和三四年(ネ)第一四七号事件)、賃貸借終了事由として新らたに、「被告鈴木は、昭和三三年九月五日以降本件建物の二階を原告に無断で訴外(本件被告)成沢美佐子に転貸して使用せしめたので、原告はこれを理由に昭和三四年一一月二七日本件賃貸借契約を解除した。」旨を付加して主張したが、同裁判所は昭和三五年一一月二九日控訴人(本件原告)主張の賃貸借終了事由はいずれも認められないとして控訴棄却の判決をしたことが認められる。而して右判決に対する上訴はなされず右一、二審判決はその頃確定したこと及び右事件の控訴審すなわち最終事実審の口頭弁論が昭和三五年一〇月六日に終結したことは当事者間に争がない。
ところで確定した本案判決の既判力は、原則として、判決の主文に包含されるもの、別言すれば当該訴訟の審判対象たる訴訟物(原則として権利または権利関係)の存否につき主文の示した判断について生ずるものであることはいうまでもないが、凡そ建物賃貸借契約を前提とする賃貸人から賃借人に対する当該建物の明渡請求の訴においては、当該賃貸借契約の成立と同時に賃貸人に生ずるところの、当該契約が終了したならば当該建物の返還を受け得るという債権に基づく、当該契約の終了に因って即時行使の可能となった具体的な権利としての当該建物の返還請求権がその訴訟物をなすものと解するのが相当であり(この訴訟物は同一当事者間では賃貸借が同一である限り同一である。賃貸借の終了は、訴訟物たる返還請求権の成立要件ではあるが、訴訟物の同一性には関係がない。賃貸借終了の原因事由の主張は、請求を理由あらしめる攻撃方法に過ぎない。)、従って右訴についてなされた本案判決の既判力は、右に述べたようなものとしての当該建物返還請求権の存否について生じ、かつ、それのみについて生ずるものと解するのが相当である(右請求権の基礎となった債権の存否についても、賃貸借が終了したか否かについても生じない)。而して右のような見地に立って前段に判示したところによれば、前訴判決により、原告と被告鈴木との間においては、本件賃貸借契約が終了したことに因る原告から被告鈴木に対する本件建物の即時返還を請求し得る具体的な権利としての本件建物明渡請求権は存在しないことが確定し、これについて既判力が生じていることになり、その標準時は前訴の最終事実審の口頭弁論の終結した昭和三五年一〇月六日ということになる。
さて、原告の被告鈴木に対する本訴請求中本件建物の明渡を求めるものは、本件賃貸借契約すなわち前訴におけると全く同一の賃貸借契約が終了したことを原因とするものであるから、その訴訟物は前訴におけると全く同一であるが、原告は本訴においては本件賃貸借契約が前訴における最終事実審の口頭弁論が終結した昭和三五年一〇月六日の後に終了したものと主張しているのであるから、右明渡請求は請求自体としては、何ら前訴判決の既判力に牴触するものではない。原告の被告鈴木に対するその余の請求がいずれも前訴判決の既判力に牴触するものでないことは敢て説明するまでもない。
三 そこで本件賃貸借契約が終了したか否かについて考察する。
(一) 先ず、原告が被告鈴木に対し昭和三八年四月二三日(イ)被告鈴木の被告成沢に対する本件建物二階の無断転貸(ロ)被告鈴木の賃料支払遅滞(ハ)同被告の本件土地不法占有を理由として本件賃貸借契約を解除した旨の原告の主張についてであるが、原告弁論の全趣旨によれば、右主張には右(イ)ないし(ハ)の各事由を解除原因とするそれぞれの解除の主張と、(ニ)右各事由の併存競合を以って別個独立の解除原因とする解除の主張とが併せ含まれているものと認められるから、以下右の各解除の主張について判断することにする。
先ず、右各主張についての共通な事実の認定として、原告が被告鈴木に対してその主張の日内容証明郵便によりその主張のような契約解除の意思表示をしたことは、≪証拠省略≫によって明らかである。
(イ) 被告鈴木が被告成沢に対し本件建物二階を無断転貸したことに因る解除の主張について
1 被告鈴木が昭和三〇年一〇月頃本件建物の二階に被告成沢を居住させ、爾来今日に至るまでこの状態が継続していることは被告らの認めるところであり、≪証拠省略≫によれば、被告鈴木はその生業たる便利屋業の仕事の関係上被告成沢に昼間の留守番を頼み、留守中の家事、来客の応接等をしてもらうことが多いので被告成沢から右二階の賃料を取ったことがなく、また右二階には被告鈴木の家財道具も若干置かれてはいるが、被告成沢は右二階に居住して自炊しながら独立の生活を営んでいるものであることが認められ、これによれば被告鈴木は被告成沢に対し右二階を無償で転貸しこれを占有使用せしめているものと認めることができる。右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 原告が被告鈴木を相手とした前訴において、被告鈴木が原告に無断で本件建物二階を被告(前訴では訴外人)成沢に転貸したことを理由に本件賃貸借契約を解除する旨の主張したことは既に述べたとおりであるが、原告の前記(イ)の主張にかかる被告鈴木から被告成沢に対する本件建物二階の転貸と原告の前訴における右主張にかかる被告鈴木から被告成沢に対する本件建物二階の転貸とは、継続した一個同一の事実関係としての一個同一の転貸であることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、原告が右両主張において右転貸が貸主に無断でなされたことに因って生じたとする解除権なるものは、仮令右両主張における右転貸の始期ないし右解除権発生の時期、原告の右解除権取得の経緯に関する主張が異っているとしても、全く同一のものと認めなければならない。蓋し一個同一の無断転貸に因り別異の解除権が発生するいわれはないからである。而して原告が前訴において前記無断転貸に因って生じたという解除権行使を主張している以上、別言すれば、原告が前訴の最終事実審口頭弁論の終結の時以前に右解除権なるものを既に行使している以上、原告の本訴における前記(イ)の主張は、仮令原告が右解除権なるものを前訴の最終事実審口頭弁論終結後である昭和三八年四月二三日に行使したように主張しているとしても、これを前訴の最終事実審口頭弁論終結の後に新らたに生じた事実の主張とみることはできない。このことは畢竟、原告の前記(イ)の主張は、原告が右解除権なるものを前訴の最終事実審口頭弁論終結の以前に行使したことを前提とする主張と同視すべきことを意味する。そうだとすれば原告の前記(イ)の主張は、被告鈴木に対する関係では前訴判決の既判力に牴触するものというべきであり、従ってこれを主張することは許されないものといわなければならない。
なお、原告の弁論の全趣旨によれば、原告は被告鈴木に対する関係では、被告鈴木が前訴の最終事実審口頭弁論の終結の時以降原告に無断で被告成沢に対する前記転貸を継続していることに因り原告の取得した本件賃貸借契約の解除権を行使した旨をも主張するもののようであるが、前訴の最終事実審口頭弁論終結の後における前記転貸はそれ以前における前記転貸の継続であって、両者は一個同一の事実関係とみるべきであるから、仮に原告の主張するとおり、被告鈴木が前訴の最終事実審口頭弁論の終結の時以降原告に無断のまま前記転貸を継続しているとしても、これに因って、原告の前記(イ)の主張にかかる解除権すなわちその行使の主張が前訴判決の既判力に牴触し許されないところの解除権と別個の解除権が発生するいわれはなく、従ってこれと反対の前提に立つ原告の右主張は失当であって採るを得ない。
3 そこで被告成沢に対する関係で原告の前記(イ)の主張の当否を考えてみるに、≪証拠省略≫を総合すると、被告鈴木は昭和一六年頃以降昭和三〇年一〇月頃までの間に土岐の暗黙の承諾のもとに本件建物二階を他人に転貸したことが何回かあり、1で判示した被告成沢に対する転貸についても、土岐はその当初の頃これを知ったに拘らずこれについて被告鈴木に対し何ら異議を述べず、爾来昭和三二年二月二六日頃本件建物を自己使用の必要があるとして本件賃貸借契約の解約申入をしたときまでの間被告鈴木から本件建物の賃料を受領してきたことが認められ、これによれば土岐は被告鈴木が被告成沢に対して本件建物二階を転貸した当初の頃これを黙認したものというべきであり、これと反対に認定すべき証拠はない。右のとおりであるから原告の前記(イ)の主張にかかる解除権の発生したことは認められず、従って右主張は失当である。
(ロ) 被告鈴木の賃料支払遅滞に因る解除の主張について
原告は、前訴においても被告鈴木が昭和三二年二月頃以降の賃料を支払わないことを理由にその支払催告をなさずに本件賃貸借契約を解除した旨主張したことは既に述べたとおりであるが、賃借人による賃料不払の事実の累積は、賃借物件の無断転貸の場合とは異なり、同一事実状態の単純な継続とみることはできず、原告としても賃借人に賃料支払の遅滞があれば賃貸人は遅滞金額の多寡に拘らず直ちに賃貸借契約を解除できるものとしているのではなく、右(ロ)の主張にかかる解除権についても、その主張の当否は格別、被告鈴木が前訴の最終事実審口頭弁論終結の後においても賃料不払いを続けそのため遅滞金額が著しく膨大になったことに因って初めてその発生要件が完備したものとして右(ロ)の主張をしているものと考えられるから、右主張は、被告鈴木に対する関係において前訴判決の既判力に牴触するものではないと解するのが相当である。
しかし賃借人が賃料の支払を遅滞した場合に賃貸人は、特段の事情がない限りはその支払催告をせずに直ちに賃貸借契約を解除できるものではなく、本件にあっては右特段の事情と認むべきものは存しない(後記(二)の事実認定参照)から原告の前記の主張は失当である。
(ハ) 被告鈴木の本件土地不法占有に因る解除の主張について
先ず、右主張は被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものではない。蓋し被告鈴木による本件土地不法占有に因って生じたという原告主張の解除権なるものの行使は本訴において初めてなされたもの、すなわち前訴の最終事実審の口頭弁論終結の後になって初めてなされたものと認めれるのであるが、凡そ賃貸借契約の解除権はその行使に因って初めて賃貸借関係に変動を生ぜしめるものであるのみならず、その行使の効果には遡及効がなく唯将来に向ってのみ該契約を失効せしめる効力を有するものであるから、原告の右主張は前訴の最終事実審口頭弁論の終結の後に生じた事実の主張とみなければならないからである。
ところで原告の前記主張についてであるが、被告鈴木が相当以前から本件土地を占有使用し、本件土地上に原告主張の鶏舎(この一部は本件土地の南隣りの土地に跨がっている)を建築所有し、その外部の本件土地上には古木材類若干を置いていることは被告鈴木の認めるところであり、≪証拠省略≫によると、被告鈴木は昭和一五年六月土岐から本件建物を賃借した際に、本件建物の裏手に在る本件土地一二坪余を、洗濯物の乾場にしたり、外回りの物件の置場にしたり、また冬期には屋根の雪の投げ棄て場にしたりして利用するため、他方その一部に鶏小屋を建てて鶏を飼うため、その使用につき土岐の許諾を得たものであり、その頃土岐の承諾のもとに堀立小屋のような本件鶏舎を建て爾来今日に至るまで本件土地を本件建物使用の便益に供するため、本件建物の賃料とは別途にその使用対価を支払うことなしに継続して占有使用してきたことが認められる。証人土岐敬は被告鈴木に使用を許諾したのは本件土地のうち南側半分だけであったように供述するが、右供述は被告鈴木本人の供述に照らすと措信できない。また同証人は、本件土地につきその使用許諾の当初は地代をもらわなかったが、後では本件建物の賃料と別に地代をもらうようになり、これは本件建物を含む別紙目録記載の土地、建物を原告に売却するまで続いたように供述するが、≪証拠省略≫によれば、被告鈴木は昭和一六年六月頃本件土地の南側に隣接している訴外竹内与三次の所有地約三〇坪を同人から賃借し、ここにも別の鶏舎を建て爾来右約三〇坪の土地をも占有使用しているものであること、竹内は土岐の実父であって昭和二三年二月死亡したが、土岐がその相続をしてから数年して右約三〇坪の土地を他に売却したこと、被告鈴木は右土地を賃借して以降少くとも昭和二六年一二月までは右土地の地代を竹内ないし土岐に支払ったことが認められ、証人土岐の前示供述中土岐が被告鈴木から本件土地の地代をもらっていたように述べている部分は右約三〇坪の土地の地代をもらっていたのをすりかえて述べている疑いが濃く、これをたやすく措信することはできない。ほかに前記認定すなわち被告鈴木が土岐から本件土地使用の許諾を得、その承諾のもとに本件堀立鶏舎を建て、爾来今日に至るまで本件土地を本件建物使用の便益に供するため本件建物の賃料とは別途にその使用対価を支払うことなしに占有使用してきたという事実の認定を覆すに足りる証拠はない。而して右認定の事実によれば、被告鈴木は本件建物の賃借権に基づき本件建物使用の便益に供するために必要なその附属地として本件土地を占有使用し得る正権原を有するものと認められるから、土岐から本件建物賃貸人の地位を承継した原告に対しても右正権原を対抗できることは当然であり、従って被告鈴木の本件土地占有は毫も不法ではない。さればその不法なることを前提とする原告の前記(ハ)の主張は失当である。
(ニ) 被告鈴木の被告成沢に対する本件建物二階の無断転貸、被告鈴木の賃料支払遅滞及び同被告の本件土地不法占有の各事由が併存競合したことを別個独立の原因とする解除の主張について
右主張は、被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものとは考えられない。蓋し右主張における解除原因を前示(イ)ないし(ハ)の各主張におけるそれから別個独立のものとみる以上これと前訴判決の既判力との関係は、前記(ハ)の主張と前訴判決の既判力との関係につき説示したところと同様になるからである。
ところで原告と被告鈴木との間の事実認定としても、同被告の被告成沢に対する本件建物二階の転貸が土岐に無断でなされたものとは認められないことは(イ)の3で認定したところと同様であり、そのほか(イ)ないし(ハ)で認定したところによれば、原告の前記(ニ)の主張は採るを得ないこと明らかである。
(二) 原告が被告が鈴木に対し昭和三八年四月二三日賃料支払催告及び条件付契約解除の意思表示をしたことに因り本件賃貸借契約は同年同月二六日解除された旨の原告の主張について
先ず、右主張は被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものでないことは明らかである。蓋し右主張によれば、右主張にかかる解除権の発生要件をなす原告から被告鈴木に対する相当期間を定めての延滞賃料の支払催告及び被告鈴木の右期間徒過という事実は前訴の最終事実審の口頭弁論終結の後になって初めて備わったものであり、従って右解除権は前訴の最終事実審の口頭弁論終結の後に発生したものだらからである。
そこで原告の前記主張について判断する。≪証拠省略≫によれば、本件建物賃貸借における賃料は昭和三二年頃当時月額二、〇〇〇円であったことが認められるが、その頃土岐が被告鈴木に対して原告主張のような賃料値上の請求をしたことを認めるに足りる証拠はない。却って≪証拠省略≫によれば、同人が右のような賃料値上請求をしたことはないことが明らかであり、≪証拠判断省略≫。従って原告が土岐から本件建物を買い受けその賃貸人の地位を承継したときの賃料は月額二、〇〇〇円であったと認められ、その後においてその値上がなされたことの主張立証はないから賃料額は今日に至るまで右同額と認めなければならない。さて、≪証拠省略≫を総合すると、原告会社が土岐から本件建物を買い受けたのはこれを同会社の従業員の寮として使用する目的からであって、原告会社はこれを買い受けて間もない昭和三三年四月上旬頃被告に対して本件建物の明渡を要求すると共に賃料は受領しない意思を表明し、爾来被告鈴木に対し賃料支払の催告をしたことは、後示内容証明郵便による催告をしたときまでに一度もなかったこと、それで被告鈴木は月額二、〇〇〇円の賃料を六ヵ月分毎にまとめ、ほぼ六ヵ月置き毎にその支払義務履行地の供託所である旭川地方法務局に弁済供託してきたが、昭和三七年一二月二七日に弁済供託により同年一二月分までの賃料はすべて弁済供託を了したこと、しかるところ原告は被告鈴木に対し昭和三八年四月二三日到達の内容証明郵便を以って昭和三三年三月分から昭和三八年四月分までの月額五、〇〇〇円の割合による延滞賃料三一万円を同年四月二六日までに支払うよう催告し若し右期日までに支払わないときは賃貸借契約解除の効力を生ずるものとする旨の意思表示をしたこと、被告は右催告に応ぜずに右催告にかかる期間を経過したこと、以上の事実が認められる。原告代表者本人の供述中原告が土岐から本件建物を買い受けた頃及び前訴判決の確定した頃被告鈴木に対し本件建物賃料の支払催告をしたことがあるかのように述べている部分は、前顕その余の証拠に照らすと措信し難い。ほかに右認定を覆すに足る証拠はない。ところで右認定の事実によれば、被告鈴木が昭和三七年一二月までにした賃料の弁済供託は有効であってこれにより同年一二月分まで賃料債務はすべて消滅したものというべきであるから、原告が右認定の賃料催告をした当時における被告鈴木の延滞賃料額は昭和三八年一月分から同年四月分までの計金八、〇〇〇円に過ぎなかったものであり、従って原告のした前認定の延滞賃料三一万円の支払催告は正当な延滞賃料額に比し著しく過大であって、到底賃貸借契約解除の前提として有効な支払催告と認めることはできない。そうだとすれば被告鈴木が前認定の支払催告所定の期間を徒過したとしても、前認定の条件付契約解除の意思表示が効力を生ずることはないものというべく、従って原告の前記主張は失当であって採用することができない。
(三) 原告が被告鈴木に対し昭和三八年四月二三日本件賃貸借契約の解約申入をしたことに因り右契約は同年一〇月二三日に終了した旨の原告の主張について
原告は、前訴においても自己使用の必要あることを理由に本件建物賃貸借契約の解約申入をしたことに因り本件賃貸借契約が終了した旨の主張をしたことは既に述べたとおりであるが、前訴の最終事実審口頭弁論の終結の後に解約申入をしたことになる前段の原告主張が被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものでないことは当然である。
そこで原告の前記主張について判断するに、原告が被告鈴木に対しその主張の日に本件賃貸借契約解約の申入をなすにつき正当事由ありとして右解約の申入をしたことは≪証拠省略≫によって明らかであるが、原告が右正当事由として主張する事実について案ずるに、既に認定したところによれば、被告鈴木から被告成沢に対する本件建物二階の転貸が原賃貸人であった土岐に無断でなされたものではなく、また原告が右解約申入をした昭和三八年四月二三日当時の被告鈴木の延滞賃料額は同年一月分ないし四月分の計金八、〇〇〇円に過ぎず、而も右賃料の支払遅滞もその責はひたすら本件建物の明渡のみを求め賃料受領拒否の態度を執っていた原告にも帰せられるべきであり、また被告鈴木による本件土地占有は何ら不法ではない。被告鈴木による本件建物の用法違反の点については、≪証拠省略≫によれば、被告鈴木は土岐から本件建物を賃借した当初の頃は本件土地ないしこの南側に隣接する前記三〇坪の土地を利用して養鶏業を営んでいたが、昭和一七年頃から便利屋業を本業とするようになり、爾来飼育する鶏の数を減らし、時によって多少の差はあるが高々十数羽程度の鶏しか飼っていないこと、被告鈴木は本件土地や前記三〇坪の土地上で鶏肉を取るため鶏をつぶして処理することが間々あるが、その際に生ずる汚物や血を散乱させ附近を不潔にすることがあり、また夏季にこれをするときは悪臭が発散するので本件建物の近くに住んでいる者就中被告鈴木方の隣家で前記三〇坪の土地の西側に当るところに居宅をもつ佐藤健治方では迷惑を被ることが間々あることが認められ、右認定の妨げになるような証拠はない。しかし右認定の事実のもとでは、被告鈴木は近隣の者の日常生活の平穏を若干害することが間々あるとはいえても、同被告が本件建物ないしその附属地である本件土地を本件賃貸借契約で予定した用法に違反して使用してきたものとは到底認め難い。以上のとおりであるが、これによれば原告が被告鈴木に対し前示解約の申入をなした当時これをなすにつき正当事由があったとは認め難い。なお、前示解約の申入がなされた時以降においてもそれについての正当事由が生ずるに至ったものと認むべき証拠はない。されば前記解約申入は無効のものであり、従って原告の前記主張は採り得ない。
(四) 原告が被告鈴木による本件建物の用法違反を理由に昭和三八年一二月二日の本件口頭弁論期日に本件賃貸借契約を解除した旨の原告の主張について
先ず右主張も、被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものではない。その理由は、被告鈴木による本件土地不法占有を理由とする原告の解除の主張と前訴判決の既判力との関係につき既に説示したところ((一)の(ハ))と同様である。
そこで前記主張についてであるが、原告が被告鈴木に対し昭和三八年一二月二日の本件口頭弁論期日においてその主張のとおりの契約解除の意思表示をしたことは本件訴訟の経過上明らかであるが、被告鈴木に原告主張のような本件建物の用法違反があったと認められないことは既に説示したとおりであるから右契約解除の意思表示は無効であり従って原告の前記主張は採り得ない。
(五) 原告が被告鈴木の訴外晴山セツに対する本件建物二階の無断転貸を理由に昭和四〇年五月一二日の本件口頭弁論期日に本件賃貸借契約を解除した旨の原告の主張について
先ず、右主張も被告鈴木に対する関係で前訴判決の既判力に牴触するものとは解されない。この理由も被告鈴木による本件土地不法占有を理由とする原告の解除の主張と前訴判決の既判力との関係につき既に説示したところ((一)の(ハ))と同様である。
そこで前記主張についてであるが、原告が被告鈴木に対し昭和四〇年五月一二日の本件口頭弁論期日においてその主張のとおり契約解除の意思表示をしたことは本件訴訟の経過上明らかであり、被告鈴木が原告主張の頃晴山セツに対し本件建物二階を転貸したことは被告らの認めるところであるが、既に認定のとおり((一)の(イ)の3)被告鈴木は晴山に本件建物の二階を転貸した以前にもこれを他人に転貸したことが何回かあり、土岐はその都度これを黙認してきたものであり、≪証拠省略≫によれば、土岐は晴山に対する右転貸についても当時これを知りながら従前と同様にこれにつき別段異議を述べずに被告鈴木から本件建物の賃料を受領していたことが認められる。これによれば土岐は被告鈴木から晴山に対する本件建物二階が転貸された頃これを黙認したものと認められるのであってこれと反対に認定すべき証拠はない。されば土岐が原告の前記主張にかかる解除権を取得したものとは認められないから、その余の判断をまつまでもなく原告の前示契約解除の意思表示は無効であり、従って原告の前記主張は採り得ない。
(六) 以上のとおりであって、原告の解除ないし解約の主張はいずれもこれを認めることができず、従って本件賃貸借契約は終了したものとは認められない。
四 されば原告の被告鈴木に対する本訴請求中本件賃貸借契約が終了したことを前提とする本件建物の明渡請求及び右契約終了後被告鈴木が本件建物を不法に占有していることを前提とする本件建物の賃料相当の損害金請求はいずれも理由がない。
五 原告の被告鈴木に対する本件建物の賃料請求について考えてみる。
土岐が被告鈴木に対し原告主張のような賃料値上請求した事実のないこと、原告が本件建物の賃貸人となった昭和三三年二月二五日以降本件建物の賃料は月額二、〇〇〇円のままであること、右同日以降昭和三七年一二月末日までの賃料については被告鈴木は有効な弁済供託をなしその債務が消滅したことは既に述べたところによって明らかである。而して≪証拠省略≫によれば、被告鈴木は昭和三八年六月九日月額二、〇〇〇円の割合による同年一月分ないし六月分の賃料を前記供託所に弁済供託したことが認められ、更に同被告がその後少くとも昭和四〇年五月一二日に至るまでの賃料について右同様に弁済供託していることは弁論の全趣旨によって明らかである。而して三の(一)ないし(三)において認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和三八年一月一日以降においても従前と同様被告から賃料受領を拒否する意思でいたもの、少くとも月額二、〇〇〇円の賃料であってはその受領を拒否する意思でいたものと認められるから、原告のなした昭和三八年一月分以降の賃料の弁済供託もすべて有効であって、少くとも昭和四〇年五月一二日に至るまでの被告鈴木の賃料債務はすべて消滅したものと認められる。
されば原告の被告鈴木に対する本件建物の賃料請求も理由がない。
六 また三で認定したところによれば、被告鈴木は昭和一五年六月以降今日に至るまで本件建物の賃借権に基づきその附属地としての本件土地を占有し得る正権原を有してきたものであり、右正権原は原告にも対抗できるものであること明らかであるから、原告の被告鈴木に対する本訴請求中所有権に基づく本件土地の明渡請求及び被告鈴木が本件土地を不法に占有してきたことを前提とする本件土地の賃料相当の損害金請求はいずれも理由がない。
七 被告成沢が被告鈴木から本件建物二階を転借して現にこれを占有していることは既に判示のとおりであるが、被告成沢が原告の前主にして原賃貸人であった土岐から右転借についての黙認を得ていたことは既に認定のとおりであり、原告と被告鈴木との間の本件建物賃貸借契約が終了していない以上すなわち右契約が有効に存続している以上被告成沢は本件建物二階の占有を原告に対抗し得ること勿論であって、原告の被告成沢に対する所有権に基づく本件建物二階の明渡請求は理由がない。
八 以上のとおりであるから原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当であって棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮崎富哉 裁判官 露木靖郎 青木昌隆)